今更ながら 映画「君の名は。」 新海誠監督 を映画館で鑑賞しました。楽しく鑑賞出来たけれどいろいろ思うところがあったので、ネタバレ前提で考察を行います。
普段はこちらでライトノベルのレビューを書いています。


鑑賞日時
2017年1月2日(月) 午後12時頃 映画館にて鑑賞。

鑑賞回数

今回が初鑑賞

予備知識

映画を観た知人のSNSで「すっごく面白かった」と「なんかモヤモヤした」程度の感想があること。 インターネットの評判などで、先の二つの意見に分かれていること。ストーリーは全くわからない(なんとなく登場人物の二人の心が入れ変わっているシーンをPVで観た)。

新海誠監督の作品は
 ・風の向こう、約束の場所
 ・秒速5センチメートル
 ・星を追うこども
 ・言の葉の庭
を観ています。

鑑賞後の感想
「すっごく面白かった」と同時に「なんかモヤモヤした」の二つの感想を持ちました。その理由を主軸に考察を進めたいと思います。

体調:至って健康

その他

友人と二人で行って、前の方の席の真ん中あたりから観ました。スクリーンをやや見上げるような感じです。星空のシーンが多かったので、空を見上げた気分でいい塩梅でした。
鑑賞後、遅めの昼食を取りながら簡単な感想会を行い、夜までビリヤードに興じた後、執筆に至ります。

執筆日時

2017年1月2日(月) 午後10時

執筆終了時間
2017年1月3日(火) 午前6時半(+推敲時間)

かなりの長文になったので、目次をつくり、項目ごとに分けました。タップかクリックで選択した項目に移動できます。

※あらすじについて
考察を行うにあたって、あらすじを、導入部、起、承、転、結の5つに分けました。
二人の主人公のシーンがオーバーラップするところや、時系列通りに物語を進行させずに”謎”を提示する手法などが使われているので、わかりやすくする為、あらすじを書き起こすときに多少プロットの順番を変えています(起と承の間あたりなど)。

「君の名は。」 考察 もくじ
 
あらすじ(初鑑賞、メモはとっていないので記憶の限りで書きます)


・導入部
 東京都の駅で【たき】が下車する少女を呼び止めた。
「君の名前を教えて」
 少女【みつは】は電車のドアが閉まる刹那に
「みつは。私の名前、忘れないで」
 と言うと、髪の[結紐]をほどいて、その紐を【たき】に手渡した。

・起 
※時系列では導入部の3年後にあたるけど、この時点ではまだ明かされていない。【たき】は【みつは】から受け取った結紐を常に手首に巻いて大事にしているが、誰から受け取ったものなのか覚えていない。【みつは】に至っては『結紐を渡した』という体験すらしていない。【みつは】が渡した[結紐]はまだ【みつは】の髪に結ばれたまま。

 東京都内に住む父親と二人暮らしの男子高校生(多分1年生)【たき】と、同い年の高校生で、岐阜県糸守町に住む神社の娘【みつは】(父は婿養子で家を出て町長をしており、祖母と妹の三人暮らし)が物語の役。 
 二人には何の接点もなく、各々の生活圏で暮らしていた。
 ある朝目覚めると、何の前触れもなく二人の心が入れ替わっていた。
 【みつは】は”たき”、【たき】は”みつは”の体に己の意思を宿して目覚めるが、最初は二人とも「変な夢だ」程度にしか考えておらず、【みつは】は焦がれていた東京の生活を堪能し、【たき】は自分自身の女性の体で楽しんでいた。
 入れ替わりは、再び眠りにつけばお互い元の体へと戻る。
 しかし、その「変な夢」を週に2,3度見るようになり、友人との会話の食い違いなどから夢ではないことを確信する。
 事の深刻さに気づいた二人は、お互いのスマートフォンの日記や、体に油性ペンで伝言を残し、二人の置かれている状況を確かめ合うようになる。
 この入れ替わりの現象はもとの体に戻ると記憶が薄れていく特徴がある。これは二人が最初「変な夢」と誤認した一因でもある。
 しかし状況に慣れてくると、今度はお互いが日常生活に支障をきたさないように約束事を作りはじめた。
 【みつは】が”たき”になった時はなよなよしないこと(要するに男らしく)
 【たき】は”みつは”になった時は慎みを持った所作をすること。
 細かい要求はたくさんあったけど、大まかな要求は上記の通り。他には「過度に体に触れないこと、裸を見ないこと」など貞操観念に関わる類いの要求だ。
 しかし、性別も性格も違う上に会ったことすらない二人が完璧にお互いを演じきって双方の要求を満たすことなど出来るわけがない。見ず知らずの他人のせいで自分の体裁が著しく損なわれていくことに苛立ち、お互いが憤まんやるかたない心持ちを募らせていった。
 さらに心の入れ替わりは周囲の人間関係も変えていった。
 特に顕著に変化があったのは【たき】の方だ。
 【たき】はアルバイト先の【奥寺】先輩に恋心を抱いていた。
 【みつは】が”たき”になったとき、【奥寺】先輩との関係が進展し、”たき”がデートの約束を取り付けるまでに発展していた。
  【みつは】が【たき】のスマートフォンに残した伝言は、激励の言葉と「今夜はティアマト彗星が地球に最接近する日だって」という意味のわからないメッセージだった。そんな情報は全く知らない。
 デート当日に【奥寺】先輩との待ち合わせを知った【たき】は、人生初のデートにノープランで挑み、大失敗に終わる。しかし別れ際に【奥寺】さんの言った言葉が、【たき】自身に一つの変化をもたらした。
「私のこと、ちょっと前まで好きだったよね? でも今は違う。他に好きな人が出来たんでしょ」
 【奥寺】先輩が去ったあと、【たき】は【みつは】が”たき”だった時に控えた【みつは】の電話番号に初めてコールをかけた。電話はつながらなかった。【たき】は「また入れ替わった時に伝言を残せばいい」と思ったが、それからは心の入れ替わりが起こることはなかった。

・承
 【奥寺】先輩とのデートの前日、”みつは”になっていた【たき】は妹と祖母の三人で[口噛み酒]の奉納に行った。
 この[口噛み酒]は人の唾液で米を発酵させて作った酒で、以前【みつは】が神社で神楽を奉納したとき【みつは】の唾液で作ったものだ。
 [口噛み酒]の奉納先は山の頂上にあるカルデラの中心に鎮座している祠だった。
 祠の手前には小さな川が流れていて、祖母は「この川から先は幽世(あの世)」だと言った。「幽世からこの世へ戻るには、自分の半身を置いていかなければならない」と言った。それが[口噛み酒]だ。
 川を越え、”みつは”と妹は自分の唾液で作った[口噛み酒]を奉納して、帰路についた。
 ”みつは”になった【たき】は山から糸守町(【たき】にとっては名前すら知らない町)を見下ろした。美しい円形の湖面の廻りに建つ家々と自然の風景に見とれていると、祖母が”みつは”の顔をのぞき込んで呟いた。
「あんた、夢をみているね」
 その言葉聞いた【たき】は【たき】の自宅で目を覚まし、デート当日の朝を迎えた。
 【奥寺】さんとのデート中。【たき】は岐阜県飛騨の写真が展示してある場所で、一枚の写真を見つけた。それは【たき】が”みつは”の時に見た、名も知らぬ町の風景写真だった。
 心の入れ替わりがなくなって、【みつは】に電話もメールも届かないことを知った【たき】は【みつは】に会うため、写真の地名を探し始めた。
 しかし岐阜県の飛騨というだけで、全く手がかりは掴めなかった。【たき】は記憶を頼りに、事細かに、山から見下ろした湖面を囲む町の絵を描いた。
 学友の【司】にアルバイトのシフトを頼み、新幹線に乗ろうと早朝の駅に向かうと【司】と【奥寺】が待っていた。半ば強引な形で二人が【みつは】の捜索に加わった。
 岐阜に着いて、地元の人に【たき】の絵を見せて、「この場所に見覚えがないか」と尋ねるが、有力な情報は得られない。
 あきらめかけたときに入ったラーメン屋の夫婦が絵の場所を知っていた。主人が糸守町の出身だった。
 【たき】は喜びの表情を見せるが、【司】と【奥寺】の表情が曇った。
 糸守町は3年前にティアマト彗星の一部が隕石として落下し、500名以上の死者を出して滅んだ町だった。
 三人はラーメン屋の主人の車に乗せてもらって、糸守町に向かった。高校校舎は隕石の被害を免れていたが、そこから先は立ち入り禁止区域になっていた。
 ”みつは”の時に通っていた校舎が自分の記憶と合致していることと、変わり果てた糸守町の惨状を見て【たき】は取り乱し、「自分の記憶は間違っていない」とスマートフォンに残った【みつは】の書いた伝言を読もうとするが、突然スマートフォンの画面が文字化けを起こしたかと思うと、【みつは】が残した伝言が一つ残らず抹消された。
 【たき】たちは図書館へ行き、隕石落下当時の新聞記事を探し始めた。そして、図書館で隕石落下事故による死者の名簿を見つける。
 【たき】が最初に見つけたのは”みつは”の時に仲良くしていた、二人の学友の名前だった。
 そして、二人の名前のとなりに【みつは】の名前が記されていた。
 絶望する【たき】に変化が現れる。
 【みつは】の名前を思い出せなくなっていた。

 3年前、隕石が落下する前日に【みつは】は【たき】に会うために東京へ向かった。
 しかし電車の中で出会えたのは、心の入れ替わりが起こる前の中学生時代の【たき】だった。
「会えば絶対にお互いが誰かわかるはず」
 そう信じていた【みつは】は落胆し、電車を降りる。
《ここで導入部につながる》
 そして糸守町に帰った次の日晩、町の夜祭りに行った【みつは】の眼前に隕石が落下した。

 早朝、【たき】は【司】と【奥寺】を起こさぬように宿を出ると、ラーメン屋の主人に頼んで [口噛み酒]を奉納した祠へ向かった。
「あんたの描いた糸守の絵、よかったよ」
 ラーメン屋の主人がわざわざ【たき】のために弁当を用意してそれを渡すと、山道の入り口まで車で【たき】を送り、去って行った。
 山を登ると、カルデラの真ん中にポツンと立つ見知った祠が目に映った。
 祖母が「この先は幽世」と言った川を越えて祠のご神体の傍まで行く。
ご神体の傍には二つの苔むした[口噛み酒]があった。一つは妹の半身。 もう一つは…
 【たき】がもう一つの酒を杯に注いで、飲み干して、そのまま気絶した。


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 目が覚めると【たき】は”みつは”になっていた。隕石が落ちる当日の朝だった。
 ”みつは”になった【たき】は町民を被害のなかった高校校舎に集めるために作戦を立てる。
 ”みつは”は学友二人を呼んで、事の子細を告げた。傍から聞けば「隕石が落下してくる」など、ただの妄言であるが、二人は協力してくれた。
 一人は土建屋の息子。有線放送設備のハッキングと、変電所に時限式の発破をしかける。
 一人は放送委員。高校の放送室から、ハッキングした回線を使って偽の避難警報を流す。
 そして”みつは”の役目は父である町長を説得して、避難時に消防隊の出動を要請させる。

 学友二人の準備は整ったけど、”みつは”は説得に失敗した。【たき】の短気な性格が父を疑わせた。
 代々【みつは】の家系には、【みつは】のように心の入れ替わりが起こる体質を持つ者が現れることを【みつは】の父は知っていた。
「【みつは】本人にしか説得できない」
 【たき】は【みつは】を呼び戻すため、ご神体の元へ向かう。【みつは】がいる確信はないけれど、そこしか心当たりがなかった。
 山を登る”みつは”。山頂のカルデラの縁に立って【みつは】の名を呼ぶ。
 【みつは】は”たき”の体に宿って、ご神体の傍で目を覚ました。
 【たき】の声が聞こえる。
 【たき】に応えるため表に出て声のする方角へ【たき】の名を呼びながら走る。
 しかし二人の間には3年分の時間の隔たりがあった。
 二人はすぐ傍にいるけれど、声が聞こえるばかりで姿が見えない。
 時刻は黄昏時{誰そ彼(誰ですかあなたは)}、幽世と現世が交わる夕暮れ時。
 【たき】は”たき”、【みつは】は”みつは”に心を宿して、お互いの姿を見つけた。
 喜びを分かち合った後に、【たき】は【みつは】にこれから起こることと、【みつは】の役割(町長の説得等)を伝える。
 【たき】は油性ペンで【みつは】の腕に自分の名前を書いた(後にこれが名前ではなく、「好きだ」と書いてあることがわかり、挫けそうになった【みつは】を勇気づけることになる)
 【たき】が【みつは】に油性ペンを渡す。【みつは】が【たき】の手に一文字目を書き始めた瞬間、黄昏時が終わった。
 【たき】の目の前にペンが落ち【みつは】の姿が消える。【たき】は【みつは】の名を忘れぬようにと、手の平に名前を書こうとするが、思い出すことができず、絶望する。

 【たき】の姿が見えなくなった【みつは】は、自分の役目を全うするべく、山を駆け下りた。変電所を爆破し、山火事が発生したと吹聴し、町長に消防隊の出動させるための説得を行うために。

 5年が経過した(【みつは】の時間では8年)。
 【たき】は就活の真っ最中だった。【司】は内定8社とれたけど、【たき】は未だ0だ。【奥寺】さんは誰かと結婚した。
 【たき】が東京の街中を歩いていると、すれ違う人の中で、既視感を感じる女性がいた。時折その人とすれ違っていたけど、声をかけられずにいた。
 【たき】は5年前、どうして飛騨に行ったのかその理由を思い出せずにいた。
 時は経ち(多分内定が取れたんだと思う)通勤途中の電車の中で、扉の向こうを眺めていると、別の電車に乗っている女性と目が合った。
 驚いた【たき】をみて、【みつは】も驚いていた。思い出せないけれど、どこかで会ったことのある人だった。

 二人は一つ先の別々の駅で降りて、お互いが降りた(と思われる)駅へ走った。
 急な階段の下に【たき】がたどり着くと、階段の上には【みつは】が立っていた。
 しかし、目を合わせることが出来ない。声をかけることが出来ない。
 【たき】は訳もなく階段を登り始めた。
 【みつは】は訳もなく階段を降り始めた。
 二人とも何かを堪えているような表情のまま、すれ違う。
 【たき】は階段の上に到達すると目に涙を浮かべながら振り返った。
「あの! どこかで会った気がするんです!」
 【みつは】は階段の下で立ち止まり、振りかえる。目に涙を浮かべていた。
「わたしも。 どこかで会った気がします」
 そして二人は同時に問いかけた。
「君の、名前は?」

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○考察

○すっごく面白かったところ。(ここは考察というより、感想になります)

・美術
 今回はキャラデザが背景に馴染んでいた。
 過去の作品では風景がすごく写実的、幻想的に描いていたのに対して、いつもとタッチが違って新鮮だった。
 以前の作品のキャラデザは背景とミスマッチで浮いている感じがしていたけれど、今回は全く違和感を感じなかった。(秒速5センチメートルの取り扱っているテーマでは、背景に馴染みきれていないキャラクターデザインの方が登場人物の孤独感を煽って面白かったけれど)。
 特に目を見張ったのは神楽を奉納するシーン。
 毎度、無機物の描写にはものすごい執念を感じていたけれど、なんかその執念を神楽の踊りで感じました。
 二人の巫女が神秘的でした。”色気のある”という表現が一番近いでしょうか。本当に生きているように見えました。

 ・・・キャラデザが底上げされて、背景がそれに合わせてグレードダウンした感じでしたが、チグハグなものより断然イイと思います。

・演出
 テンポが良くて飽きることなく観られました。音楽やカット絵も豊富で、あっという間に時間が過ぎました。
 特に声優さん方の演技が良かったと思います。台詞は一息で言えるくらい短めに作られていて、その分、一息の中に様々な思いをのせて話す演技はお見事です。
 ストーリーに関しては後述します。

 ○なんかモヤモヤした所

・ストーリー
 ストーリーも含めた世界観にモヤっとしました。
 
 一言で表現すると”ズルい”って思いました。

 私はこの作品を観て、飽きることなく最後まで観られたし(初見で前項のあらすじをここまで書けるくらいは集中できました)心が痺れるものがありました。でもそれはストーリーに対してではありません。演出に対してです。

 この作品は”忘却”と”時間”にファンタジー要素を設けてドラマを作っています。
 この二つが揃うと何でも出来てしまいます。
 逆に言えばなんでも出来てしまうから、整合性と制約を明確にしないと、とてもつまらなくなります。
 本来なら作品に魅力を与えるはずのファンタジー要素が「ご都合主義の逃げ道」になってしまいます。
 私は観ている時にそれを感じてしまって、ストーリーを楽しむことは出来ませんでした。(その根拠を説明すると文章が長くなるので、後述します)

 そして”忘却”という設定の多用により、物語が「思い出した」「忘れた」の切り替えで展開していくのでキャラクターの成長を垣間見ることが出来なかったのも残念です(あらすじの”結”の部分で【たき】が声をかけたシーン。あれが唯一キャラクターが成長した部分だと思いました)。

 ”忘却”設定の利点は、「出会い」の衝撃です。
 0からの出会いではなく
「朧気な記憶を孕んだ出会い」
 これを毎回【たき】と【みつは】は経験できるのです。

 お互いの名を思い出した、その歓喜の瞬間
 音楽が鳴り響き!
 幻想的な風景がスクリーンいっぱいに広がって!
 観客は魅了されるでしょう、私も魅了されました。ギュンギュンきました。これ以上のロマンティックはあるのでしょうか?

 だから”ズルい”と表現しました。

 これは完全に力業です。美術と楽曲にストーリーが振り回されています。
 キャラクター同士の出会いのシチュエーションが、
 美術や楽曲を盛り上げるための”エフェクト”でしかない。
 私はシーンに魅了されながらも、そんな事が頭をよぎってしまってとても悲しくなりました。
 長編作品である必要がないからです。
 楽曲が流れる瞬間の5分だけを切り取って観ても(キャラクターになんのバックボーンがなくても)、きっと私は同じように魅了されると思います。登場人物が約1時間45分の間で何も積み重なっている気がしなかった。
 声優さんの演技がすばらしくて、台本の台詞には空気まで書き込まれているんじゃないかと思いました。
 ストーリーが壮大な世界観を魅せるだけのものになってしまったのが残念でした。



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「ご都合主義の逃げ道」と思った理由について
ファンタジー設定の整理
 まず「君の名は。」における、ファンタジー設定部分を箇条書きで整理をしたいと思います。ファンタジー設定は”時間”に関するもので、そこに”忘却”が付随します。

【みつは】は”他人と心が入れ替わる”体質を、血筋として受け継いでいる。

”他人と心が入れ替わる”体質は心だけ時間を超越する。
 
黄昏時になると、特定の場所で(ご神体近く)時間の揺らぎが生じて体ごと時間を超越する。

半身として納めた[口噛み酒]を飲むと、一般人でも他人([口噛み酒]の唾液の持ち主)と心が入れ替わる能力を得る。



名前や行いを忘れる切っ掛け(忘却の引き金)を箇条書きします(後の説明の為番号を振ります)。
 
1,
心が入れ替わったあと、元に戻って目が覚めたとき(夢見心地程度に覚えてはいる)

2,
糸守町の惨状を【たき】が見たあと、スマホの電子データで【みつは】のデータだけが消える。

3,
【たき】が隕石落下事故の死者名簿で【みつは】の名前を見つけたとき。

4,
黄昏時を過ぎたとき(名前以外はほとんど覚えているけど【たき】の方はすぐ忘れる)


上記の定義で整合性を検証します。

1,
これは理屈というより「夢を見たあとの感覚」として理解できます。


2,
意味がわかりません。理由が長くなるので後述します。


3,
これも意味がわかりません。”記憶”ではなく、【司】や【奥寺】さんと言った第三者も見られる
”記録”として残っている名前を忘れられるのでしょうか。しかも名前だけ。
というか【司】や【奥寺】さん、取り乱している【たき】の様子をみているのなら、覚えるか控えるかしておきましょうよ。


4,
【みつは】の体質と一般人【たき】の体質が違うから、と言う理由なら説明がつきますが…どうなんでしょう?【みつは】も【たき】と同じように忘却に苦しんでいるように思えました。



2,のスマホの電子データ消去について。
 糸守町の惨状を見た瞬間になぜスマートフォンのデータが消えるのか。
 
 ”心の入れ替わり”が出来なくなった理由ははっきりしています。【みつは】が命を落としたからです。
 でもその前まで【みつは】は生きていて、三年後の”たき”になって、文章を打っています。精神的には【みつは】でも、物理的な身体は【たき】です。
 この前提でスマートフォンのデータが文字化けを起こして消えていく理由は私には二つしか思いつけませんでした。
     
・スマートフォンが壊れたから。
・隕石落下時になんらかのファンタジー要素が働いて、過去に心が入 れ替わった事実さえも抹消した。

 
二つ書き出しましたが、最有力候補は前者です。後者だとこの時点で【たき】が糸守町まで来た理由がわからなくなります。

 あと特に作品内で説明がなされていないけど、整合性が取れそうな設定は二つ浮かびました。
 
  ・時間を超越した者同士は、ご神体に供物として記憶(主に相手の名前)を捧げなければならない。
 
・全部【たき】の夢だった。

 前者であれば、ちゃんと設定を押し出せば、記憶を供物に捧げるか否かで葛藤が生まれ、中二病臭こそ漂いますが、面白く脚色できるのではないかと思います。

 【たき】の夢オチ案は、彼を中心に世界が回るので全ての出来事に整合性がとれます。でも私は全力で否定したい! つまらないから。


 これらの整合性の不釣り合いから、私は生理的にこの映画を観ている間、物語のファンタジー要素を「ご都合主義の逃げ道」と判断してしまいました。 


 それと、ストーリーのワンシーン
 黄昏時に二人が出会って。たきが「自分の名前を忘れても大丈夫なように」と、みつはの手の平に名前を書くシーンがあるのですが、実は、自分の名前を書かなかったんですよね
「好きだ」
って書いたのです、たきくんは。

私の価値観で忌憚なく物を言わせて頂けるなら、コレは
「外道」です。

 たきは、自己満足のために、散々自分がみつはの事を思い出せなくて苦悩していたにも関わらず、みつはにも同じ思いをさせるつもりのようです。
 みつはがポジティブに捉えてくれて、心の底からよかったと思いました。


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隕石は3回落ちた?

 これは独断と偏見による解釈です。物語を見ていて思ったことで。今回を含めて「隕石は糸守に三回落ちたんじゃないか」と思いました。
・落ちた箇所

1つ目
今作品で落ちた隕石。

2つ目
円形の湖になってる場所。

3つ目
ご神体のある祠。

1つ目は言わずもがな、2つ目は【みつは】のクラスメイトが「千年前にも落ちたんだ」という下りと、湖があまりにも綺麗な円形の形をしているところから。

3つ目について
 作中に登場する壁画から(あれが落書きじゃないとして)ご神体が隕石にまつわるものだとわかります。
 【みつは】の妹(が言ったのかな?うろ覚え)が
「なんでうちのご神体はこんな遠くにあるの?」
 と[口噛み酒]を奉納するときに苦言を漏らします。
 「うちの」ということは、ご神体の祠は複数あるのではないかと。
 で、同じく隕石にまつわるご神体なら、他の祠は2つ目の湖畔にあるのではないかと考えました。

 隕石にまつわる祠なのに、町の湖の中心でなく山頂のカルデラの中心にあるのがおかしいと思ったからです。
 あのご神体がある山は活火山ではなく、カルデラが出来た要因は隕石の落下によるものではないでしょうか。
 となると、糸守町に隕石は最低でも3回落ちたことになります。

 それと”某(名前わすれました)の大火”という伏線が全く回収されていない歴史上の出来事は、”山頂に隕石が落下したことによる火災”ではないかと、一人勘ぐっています。



「君の名は。」を観て思い浮かべた作品


 最後に「君の名は。」を観て、思い浮かべた(また読みたいな)と思った作品を紹介します(有名だと思うんですけど)。


「shuing」

 これは本でも映画でもありません。 インターネットの掲示板で話題になった、女性の幽霊を見た少年が彼女の為に右往左往する体験談です。
 フィクションか否かを証明する手立ては一つもありません。しかしフィクションとしか考えられないほどドラマティックです。
 少年が掲示板の人たち(知っている方は電車男をイメージしていただければ)に文章で報告すると言う形なので、最初は戸惑うかもしれませんが、おすすめです。 時間と忘却の制約がくっきりしています。なにより登場人物(投稿している少年本人)を心の底から応援したくなります。
 掲示板のタイトルから、嫌がる人がいると思いますが、内容はとにかく純粋です。是非読んでください。
 
 元々掲示板サイトのスレッドでしたが、読みやすくなるようにまとめてくださいました。 shuing

ストーリー(体験談?)は「君の名は。」よりも私はずっと好きです。

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ラノベレビュー・紹介所(こちらのサイトでライトノベルのレビューを書いています。)